花灯篭ー1

恋はするものではなく、落ちるものなのだ。
和服の似合う儚げな女性を一目見た皆川わたるは、そう感じていた。
なんとか名前を知りたい。どんな名前だろうとわたるは思いを巡らせていた。
その女性もまた、わたるを一目見て全身が雷に打たれたような感覚に陥っていた。
見た感じ、若そうだし、独身なのかそうじゃないのか、目鼻立ちからして日本人には見えない。そして、和服を身につけている人間がほとんどを占めるこの場から少し浮いているように見えるその雰囲気に、女性はわたるから目を離せなかった。
「あの…こういう場は…初めてですか…?」
 その女性こと綾瀬かなみは、思い切ってその男性に声を掛ける。すると、わたるはなぜわかったのかと感じで、かなみを見つめる。
「はい…会社の命令で…この場にいるのですが…作法とか全くわからなくて…」
 かなみに声を掛けられたわたるは、会社の命令でこの場にいるのだが、作法とか全くわからない状態でこの場に参加したのだと答える。
 よくよくかなみを見たわたるは、その美しさというか儚げさに惹かれていくのを感じた。自分と大して年齢も変わらなさそうなかなみに惹かれていくのがわかった。
「綺麗な着物ですね…」
「そうですか…?安物の着物です…仕事柄…着物はたくさん持っているのですが…安物ばかりです…」
 わたるに綺麗な着物を着ていると言われたかなみは、仕事柄着物はたくさん持ってはいるが、どれも安物の着物で、綺麗と言われて恥ずかしい限りだと呟く。
「そんな事ないですよ…着物に詳しくない僕でもいい着物だってすぐわかりましたから…」
 かなみの呟きに、わたるは着物に詳しくない自分でもそれなりの値段がする着物であることはすぐにわかったと笑いかける。地味でもなければ派手でもない。しかし、見る者を魅了せずにはいられない色合いと模様に、わたるは、かなみのその場に合った着物を選ぶセンスの良さを感じていた。
「あの…よろしかったら…お名前…訊かせてもらってもいいですか…?」
 その場の雰囲気を壊さない雰囲気を持っているかなみに惹かれたわたるは、失礼承知でかなみに名前を訊ねてしまう。
「綾瀬です…綾瀬かなみと申します…」
「僕は…皆川わたるといいます…」
 かなみの名前を訊きだしたわたるは、自己紹介を兼ねて自分の名刺をかなみに渡す。儚げだが、人を魅了せずにはいられないかなみの雰囲気に、わたるはますます惹かれていた。
 いわゆる一目ぼれなのだが、惹きつけられずにはいられなかった。かなみもまた同じであった。目鼻立ちといい、すらりとした長身といい、全く日本人とは思えないわたるの雰囲気に惹かれていた。わたるとかなみ。二人は、これが、許されざる恋である事など気付かないまま、運命の出会いを果たした。切なくも激しい恋物語がこうして幕を開けた。