大奥恋絵巻ー33

「お妙…それは…もしかして…」
 
 
「これ以上は教えて差し上げません…」
 
 
 もしかして、それは自分だと思っていいのかと呟く家治に、お妙は、もうこれ以上は教えてやらないと笑いかける。
 
 
「きちんと言ってくれ…でなければ…自惚れてしまう…」
 
 
 お妙からの思わぬ言葉に、家治は、きちんと言ってくれないと、自惚れてしまうと呟く。
 
 
「とにかく…戻りましょう…大奥から長いこと抜け出している事がわかったら…瀧川様に叱られます…」
 
 
「よい…この家治が連れ出したのだ…誰にも文句は言わせぬ…」
 
 
 大奥を長い時間抜け出しているのがわかったら、大奥の総取締役に叱られると呟いたお妙に、家治は、自分が連れ出したのだから、文句は言わせないと答える。
 
 
「もう少し…浸らせてくれ…そなたの心が手に入ったかもしれぬこの時に…」
 
 
「上様…」
 
 
 お妙の心が自分に向いたこの時に浸らせてほしいと呟いた家治に、お妙は、静かに頷きながら、家治の手を取る。
 
 
「そなたには…野心がない…それが…わしを惹き付ける…」
 
 
「私も…上様に慈しんでいただいてると…思えば…胸が音を立てます…」
 
 
 お妙には野心がないから惹きつけられるのだと呟く家治に、お妙は、家治に慈しまれていると思うと、胸が音を立てるのだと答える。
 
 
「お妙…わしは…今日ほど嬉しい日はないぞ…」
 
 
「そうですか…」
 
 
 お妙の心が手に入ったと知って、今日ほど嬉しい日はないと呟く家治に、お妙はそうなのかと優しく笑いかける。