雪月花ー3

「かなみさん…」
 
「わかっています…少し待ってください…」
 
 着物の裾から分け入るように手を忍ばせ、かなみが欲しいと呟いたわたるに、かなみは、わかっているから少しだけ待つよう呟き、わたるから身体を離すと、わたるに背を向け、着物の帯を自ら解く。
 
「あの…わたるさん…灯りを…じゃないと…」
 
 帯を解き、あとは、薄紅色の長襦袢を脱ぐだけとなった時、まだ、西田に抱かれていた痕跡が残っている事に気付いたかなみは、蛍光灯の下でそれを見られるのは辛いとばかりに、わたるに部屋の電気を消してほしいと呟く。
 
「わかっています…でも…これだけは…覚えていてください…かなみさんが…社長に抱かれた直後だとしても…僕は…かなみさんを…抱けるという事を…」
 
 灯りを消して欲しいというかなみの呟きに、わたるは、灯りは消すと答えた後、たとえ、かなみが西田に抱かれた直後の直後だとしても、自分はかなみを抱けるという事を覚えていて欲しいと呟く。
 
「かなみさん…僕は…あなたのためなら…地獄に落ちても構いません…どんな痛みにも苦しみにも…耐えてみせます…」
 
 一糸纏わぬ姿になったかなみを抱き寄せたわたるは、かなみに、自分はかなみのためなら地獄の業火に焼かれても構わない、どんな痛みにも苦しみにも耐えてみせると呟く。
 
「わたるさん…私も…あなたのためなら…地獄の業火の焼かれても…構いません…」
 
 わたるの呟きに、かなみは、自分もわたるのためなら地獄の業火の焼かれても構わないと答える。
 
「かなみさん…」
 
 かなみの言葉に、わたるは、かなみを抱き締める力を強めると、かなみに深く口付け、かなみをベッドに横たわらせる。
 
 ベッドに横たわらされたかなみの肢体は外の雪にも負けないくらい白く澄んでいて、その肌に、わたるは、指を滑らし、唇を這わせる。
 
「わたる…さん…あっ…あぁっ…」
 
 西田の痕跡を自分の痕跡に変えるように唇を這わせ続けるわたるの背中に自分の腕を回したかなみは、甘くそれでいて艶やかな吐息と声を漏らす。
 秘密の逢瀬…西田に知られたら…ただでは済まない…それがわかっていても、わたるとかなみは、互いを求めずにはいられない…かなみよりもわたるの立場が悪くなる関係…それでも、わたるとかなみは、吐息を混じり合わせ、指を絡み合わせ、肌と肌を重ね合い続ける。
 
 心が爛れてしまうほどの地獄の業火に焼かれても、それが求めた愛の地獄なら、身をゆだねるだけだとわたるとかなみは思っていた。それほどまでに、わたるとかなみは、互いを求めてやまなかった。雪明りの漏れる部屋でわたるとかなみの影は、重なり合い続ける。